非常に印象に残るエピソードを紹介します。
みんな滅びてしまい、悲しさや淋しさがただよう物語にあって、このエピソードはとても人間的だ。
それは呉の国境を守る将軍陸抗と対岸で同じく国境を守る晋の将軍羊帖、二人の不思議な友情である。
組織や背後にある国の力関係には、まったく関係なく、人間同士は良く知りあうことが大事であり、相手の人柄こそ大切であり、それを感知し合うことだ、ということをこの2人の友情は教えてくれる。
ある日両方の将軍が、狩の途中、ばったりぶつかった。もちろん国境線をへだててお互いの国境の中にいる。いくつかの獲物を仕留めて帰ってみると、羊帖将軍の獲物に呉の矢が刺さっている。それを知って羊帖はわざわざそれを呉に届ける。
するとお返しに陸抗から、「失礼だがおたくの大将はお酒を飲まれますか」といって、仕込んだばかりの酒がお礼につかわされる。
側近連中はきっとその酒には毒でも入っているだろうというが、羊帖は、「陸抗は毒などもる男ではないわ」と酒を飲み干してしまう。「疑うことはない」と笑って最後の一滴まで飲み干したのである。
逆に陸抗が病気になったとき、羊帖から贈られた薬を、まわりが毒薬かもしれないという声をよそに、「羊帖は人に毒をもるような男ではない」と、こちらも飲み干して、病気が治っている。
2. こんなふうにして、すばらしい人間関係が続く。
しかし呉の上司が、あいつ(陸抗)は敵と通じていると邪推し、彼を左遷してしまう。これを聞いた晋の羊帖は、ああいう人物がいなくなった今こそ攻め時であると、一気に呉を攻めてしまう。
結局、呉は滅びるわけだが、実に含意のあるエピソードだと思う。
結局、大切なのは組織や国ではなく、人間であると躯いあげたように感じられる。
人間関係というのは、相手に対する洞察力、相手に対する信頼をベースにすべきであり、軽薄な打算で付き合うものではない。自分をぶつけていく、そういう素直さが根底に必要であること。そして、相手から付き合って面白いとか、味があるとか思われるだけの内面的魅力を身に付けなければならない。
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